ソース王国でお好み焼天国の広島には、広島市以外にも県内の各地に個性的なご当地お好み焼きが存在します。当地の歴史や特産を反映したものや、町おこし的なB級グルメとして開発されたものなど様々ですが、どれも地元の熱い思いが込められています。県内各地の「ご当地お好み焼」10点を紹介します。
島内に数十店のお好み焼き店がある「お好み焼きアイランド」の因島でソウルフードと言われるのが「いんおこ」。
基本は広島風お好み焼きですが、麺をうどんにするのが特徴です。造船業が盛んだった昭和30年代、地元のお好み焼き屋さんが造船マンのために地元のうどんをプラスしてボリュームアップさせたのが始まりだとか。今ではしまなみ海道を走るサイクリストのエネルギーチャージ飯となっています。
生地の上にキャベツなどの具材を乗せ、その上にソース味の焼きうどんを乗せるパターンもあれば、生地の上に焼きうどんを乗せてからキャベツなどの具材を盛るパターンもあり、店それぞれに微妙な違いがあるようです。
いんおこ | 因島のおすすめ | いんのしま観光なび(因島観光協会) (kanko-innoshima.jp)
呉焼きは古くから地元に親しまれているご当地お好み焼です。造船産業が盛んだったころ、当地で働く職工さん向けに、ボリュームたっぷりで手早く持ち帰りやすくと、独自のスタイルが生まれたと言われます。
一般的な広島風お好み焼は具材を段々に重ねますが、呉焼きはキャベツやモヤシなどの野菜と豚肉、卵、うどんの細麺を炒めて予めソース味の焼きうどん(あるいは焼きそば)を作って生地に乗せるという作り方です。
じっくり蒸し焼きにする広島風とは違い、具材を一緒に炒めて時短を図って供します。「呉焼き」というより「呉式お好み焼」といった感じです。
生地は薄く広めに焼いて、ソース焼きうどんを乗せて二つ折りにするのも特徴的です。席数の少ない小さなお店が多かったからか、持ち帰りの需要に向けて二つ折りにしたとも言われています。
尾道焼きの特徴は、砂ズリ(砂肝)とイカ天が入ること。広島風のお好み焼にもイカ天を入れるお店は多いですが、尾道焼きはやや大きめのイカ天がたっぷり入ります。逆にキャベツなどの野菜は少なめな感じですが、お店によって量の大小や具材の違い、手順など細かな違いがあるので、尾道焼きの最も大きな特徴は何と言っても砂ズリを入れるところでしょう。
お店によっては豚バラ肉のスライスを加えたりミンチ肉を加えるアレンジも見られますが、発祥の店とされる『村上』では豚肉やミンチは入れず砂ズリで勝負です。肉が入らないぶんあっさりと仕上がり、コリコリした独特の食感がアクセントになって印象深いお好み焼となっています。
尾道焼き | レシピ | 日清フーズ (nisshin-foods.com)
三原焼きはトッピングの具材に鶏モツを使うのが特徴です。三原市は広島県内の鶏肉生産の半数を占め、新鮮な鶏モツ(レバーや玉ひも、キンカン)が手に入る環境からか、昭和30年代ごろからお好み焼きに鶏モツを使うようになったと言われています。
一般的な広島風お好み焼きと同様の作り方がある一方、生地の上に麺を乗せてキャベツを乗せるお店や、キャベツと一緒に炒めたソース焼きそばを生地の上に乗せるお店など、多様なスタイルがあります。
また、麺なしのお好み焼きを供する昔ながらの一銭洋食スタイルで供する店もあり、これに麺を加えるお好み焼きを関西風のお好み焼きと同様に「モダン焼き」と呼ぶなど関西との繋がりも垣間見られます。
三原焼きの歴史 | 三原焼き振興会 (miharayaki.com)
広島県の個性あふれるご当地焼き・お好み焼5選
ご当地お好み焼きとして地元に定着しているお好み焼きです。乗せ焼きタイプで基本的には広島風のお好み焼きと同じですが、肉がスライス肉ではなくミンチ肉を使う、もやしは入れないという違いがあり、ヘラで押し付けて肉や麺をカリカリに焼くのが特徴です。
府中の商工会議所がバックアップして2008年に「備後府中焼きを広める会」を立ち上げ全国のご当地グルメが集まる「B-1グランプリ」にエントリーしたほか、広島経済同友会が主催する「広島てっぱんグランプリ」では初代王者に輝いています。市内の約40店で食べられるという、地域密着のお好み焼きです。
2010年に誕生して、翌年の「第2回広島てっぱんグランプリ」で優勝をかっさらったシンデレラガールならぬシンデレラお好み焼き。ベースは広島風お好み焼ですが、麺の代わりに庄原産米のご飯を使い、ソースではなくポン酢でいただくのが特徴です。
元祖という『お好み家ほっ』では、醤油味ごはんの広島風肉玉お好み焼を基本に、刻みネギ、梅干し、紅しょうが、マヨネーズをトッピングします。店によって個性が違い、ごはんがキムチ炒飯だったり、バターライスや味噌だれご飯だったりします。
また、トッピングもトマトや納豆、大根おろし、鰹節と海苔などバラエティーに富んでいて、どれもポン酢に合うあっさり系のトッピングです。
町おこしプロジェクトとして「こめぽんズ」がバックアップし、商標登録や公式キャラクター、応援ソングなどで普及に努めています。
三次商工会議所青年部が2012年に立ち上げたプロジェクトで、地元の三次市26店のほか、広島、山口、愛媛、京都、東京、愛知、静岡など42店で食べることができます。
基本は広島風のお好み焼きですが、使用する麺は地元の製麺所で江草商店の「唐麺」を、ソースも地元の毛利醸造社のもので一般流通していない業務用の「カープソース辛口」を使うことがルールになっています。
その他の具材やトッピングなど調理方法は各店に委ねられていますが、「三次唐麺焼」のネーミングが商標登録されているのでプロジェクト加盟店以外では食べられないお好み焼きです。
どちらかというと甘口めのソースが多い広島風お好み焼きにあって、唐辛子が練り込まれたピリ辛麺にスパイスをきかせた辛口ソースがくせになります。「第5回広島てっぱんグランプリ」で優勝するなど、その実力も折り紙付きの新星のご当地お好み焼きです。
参考 三次唐麺焼プロジェクト _ 三次商工会議所青年部
三次で知らない人は居ないという江草商店の『唐麺』。4代目店主の江草大地さんが発案し、当地のお好み焼店の『宝来屋』の店主の意見を聞きながら試行錯誤で開発した人気商品です。約100gの麺に3~5本分の唐辛子の粉末が練り込まれているとか。
お好み焼きのアクセントとしてはもちろん、そのまま主役の焼きそばではホットな辛味をダイレクトに味わえます。
小麦粉は使わず、納豆と山芋を生地のベースにしたお好み焼きです。「熊野筆」で有名な熊野町に、「筆に次ぐ名物を」ということで地元のお好み焼き店『鏡』が2010年ごろに開発し、他店もアレンジしてご当地名物として定着しています。
パック入り納豆に付いているタレと辛子を加えて混ぜた納豆に、卸した山芋、刻んだネギ、砂糖、卵、マヨネーズを入れて混ぜて焼く「混ぜ焼き」タイプのお好み焼きで、生地でチーズをサンドしてこんがりと両面を焼きます。
仕上げにマヨネーズと削り節、刻み海苔をトッピングし、ソースではなくポン酢でいただきます。軽い食感なので、ご飯のおかずとしても重くないお好み焼きです。
体にやさしいレシピ~巣ごもりふわふわ納豆焼き~|熊野町 (town.kumano.hiroshima.jp)
朝の連続テレビ小説『マッサン』の舞台にもなり酒蔵がある街の竹原に相応しく、お好み焼きの生地に純米吟醸の酒粕を練り込んだお好み焼きがご当地名物のお好み焼きとして開発されました。
基本的な作り方は広島風お好み焼と同じですが、キャベツと麺を合わせて炒めたものを生地に乗せたり、麺とキャベツなどの具を上下2枚の生地でサンドするなど、一般的な広島風お好み焼きとは異なる焼き方の店もあります。
酒粕を練り込むことで一般的な広島風お好み焼よりも生地は厚めで、しっとり、もっちりの食感に。ほんのり芳しいお酒の香りが不思議にソースの風味とマッチします。お好み焼きにはビールが似合いますが、純米吟醸竹原焼きには日本酒を合わせたいですね。
https://www.amazon.co.jp/gp/search/ref=as_li_qf_sp_sr_il_tl?ie=UTF8&tag=a23m5z565-22&keywords=広島焼き お好み焼き&index=aps&camp=247&creative=1211&linkCode=xm2&linkId=de216b43d3a15141695800cad7d5f86d
室町時代から戦国時代にかけて芸予諸島を中心に瀬戸内海の海上交通を支配していた村上水軍の歴史遺産群が、2016年に日本遺産として認定されたのを機にご当地新メニューとして考案されたのが「因島村上海賊焼き」です。
「いんおこ」と同じく麺はうどんを使うこと、具材にはタコを含めて2種類以上の海鮮を使うこと、仕上げに村上海賊の幟をイメージした旗を立てることの3点をルールに、地元のお好み焼き店13店がメニューとしています。
因島村上海賊焼き | いんのしま観光なび(因島観光協会) (kanko-innoshima.jp)
広島のお好み焼を調べていたら、県内各地に個性的なお好み焼きが存在していることを知りました。どれも当地の特産品や歴史などの背景があり「ならでは」の魅力的なご当地お好み焼です。そんな、ご当地お好み焼きを食べるのを目的に各地をめぐる旅も楽しいですね。